ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Bosch & Rockit ボッシュとロケット

オーストラリア映画 (2022)

オーストラリアらしいサーフィン映画。この映画を製作したBlack Pearl productionの公式サイト(https://blackpearlproductions.com.au/bosch-rockit/)の冒頭に書かれている「あらすじ」には、こう書かれている。「携帯電話やソーシャルメディアが普及する前の1980 年代後半を舞台に、『ボッシュとロケット』は、13 歳の少年ロケットの目を通して語られます。母が家に帰って来ない理由を知りたくてたまらないロケットは、彼の父ボッシュと一緒に魔法のような休暇旅行に出かけますが、そこで分かったことは、彼らが法から逃げていることでした。ロケットは、ソウルメイトと出会い、アシュ・アシュと ティーンエイジャーらしい恋に落ちますが、両親から得たいと彼が望んでいた安心と平穏を与えてくれたのは海でした。ロケットは、結局自然に抱かれた少年で、物語の進行に伴って、私達の心をつかみ、尊敬を勝ち取る若者です」。これに付け加えるとすれば、プラスの面では、①サーフィンのシーンは、プロの本人が演じているだけあって素晴らしい、②長髪のロケットが、極めて男の子らしい面と、女の子のように見える面の両面を持っていて、その “あり得なさ” が面白い の2点。マイナス面では、①登場人物に変化がないのに、 実際には かなりの年月が経っていると設定は、観ていて分かりにくい、②デレクとキースの極悪ペアが本物の警官だと気付くのにかなりの時間を要する、③結末がもっとハッピーでも良かったのでは? の3点。オージー英語の字幕は、訳すのが難しくて大変だった。特に、「I've got to go see a man about a dog」を、結局どう訳すべきかで悩んだ。

13歳のロケットの父ボッシュは、母と別居中で、その仕事は、家から離れた農園で栽培する大麻の違法販売。そんなボッシュの元に、旧友で警官になっているキースが、上司のデレクを連れてやって来る。キースは、もともと、ボッシュの大麻にも参加している悪徳警官だが、デレクは彼以上の悪漢で、コロンビアから取り寄せたコカインでボロ儲けを企んでいる最悪の男。そのデレクが、ボッシュに、コカインを押し付けて処分(換金)を要求する。デレクは仕方なく預かるが、山火事が農園まで延焼した時に、何もかも失ってしまう。報復を恐れたボッシュは、ロケットを連れてバイロン・ベイへ逃げる。ロケットにとってそこは、大好きなサーフィンができる聖地だった。持ち金の少ないボッシュは、お粗末なモーテルに取り敢えず3ヶ月滞在することにするが、そこで父子とも出会いがある。ボッシュは、ホテルのオーナーの娘デブ〔日本語だと変な意味〕、ロケットは同じホテルに短期滞在中のアシュと親しくなる。しかし、デレクのボッシュに対する包囲網は徐々に狭まり、危機感を覚えたボッシュは、ロケットを別居中の妻に預け、自分はバイロン・ベイから姿を消す。ロケットが2年ぶりに会った母は、以前とは違い、アル中になっていて、ことあるごとに衝突するが、救いは、アシュと再会できたことだった。2人は、1年の間に親密度を増して行く。しかし、ロケットと一緒にいて、アル中を責められることに耐えられなくなった母は、ある日、ロケットを騙して連れ出し、ボッシュが隠れ住んでいる小屋に置き去りにして去って行く。その現実に耐えられなくなったロケットは、漁師の手伝いをしてみて、それが好きになり、父のボッシュが、国外逃亡を兼ねてフィジー行きの漁船に乗り込むと、漁師として生きていく道を選ぶ〔映画では、すべてが明瞭に語られている訳ではないので、特にラストの部分は間違っているかもしれない〕

ロケット役のラスムス・キング(Rasmus King)はプロのサーファー。2005年4月17日生まれ。FILMINKというサイト(https://www.filmink.com.au/rasmus-king-surfs-up/)では、ラスムスがインタビューの中で、「僕は、4歳の頃から、家族と一緒にあちこち回ってサーフィンをしてた。自宅学習で、世界中の波を追いかけた」と言っているので、鍛えられた体と技は その賜物だろう。さらに、「(映画の)製作が持ち上がった時は、僕が13歳かそこらの時だったと思うけど、山火事〔オーストラリアで大規模な山火事が頻発した〕とか、新型コロナとかで、完成までにすごく時間がかかった」とも言っている。別の情報によれば、撮影は2020 年3~9月だとか。ラムセスは14~15歳になるが、もともと声が高いのか、声変わりが遅いのか、童顔のせいなのか、そんな年には見えない。髪がすごく長いので、シーンによっては女の子のように見えるが、性格は男性的で、演技も巧い。なお、ラスムス自身のインスタグラム(https://www.instagram.com/rasmusking/)にあった最新のサーフィンの動画映像はこちら

あらすじ

映画の冒頭、巨大な波が水中から写され、その上を滑走していくサーファーが現われる(1枚目の写真)。流れるサーフミュージックと合わせて幻想的な雰囲気を醸し出す。画面はすぐにカールする波の中に入るチューブライディングを真正面から捉えたシーンに変わる(2枚目の写真)〔どうやって撮影したのだろう?〕。そして、タイトルが表示される。その「Rockit」だが、Rockit本人も、父親も「ロケット」と発音しているので、ロキットにしなかった。なお、Rockitは、彼の母が付けた名だが、恐らく「Rock it」からの発想であろう。Urban Dictionaryによれば、「To do what you do in an outrageous and marvelous way」と書かれている。「信じられないくらい素晴らしいことをする」というくらいの意味。

次は、ロケットの父、映画のタイトルのボッシュの、非合法な仕事が紹介される。彼は 仲間の2人に、林の中に作った農園の小屋で、栽培した麻薬を細かくして半乾燥させている(1枚目の写真)。彼は そこに 車を乗りつけると、大麻を売って儲けた分厚い札束を2人に渡し、喜ばせる(2枚目の写真、矢印は札束)〔オーストラリアでは、キャンベラ首都特別地域でのみ、2020年から合法的に大麻を所有し栽培することができるようになったが、この映画の舞台は別の場所なので、これは明らかな違法行為〕

ボッシュの自宅では、父が大麻農園に行っていて不在なので、ロケットはインスタントラーメンの袋を破り、簡単な夕食。そのあと、電話を取って別居中の母に電話をかける。留守録になっていたので、「やあ、ママ、お休みを言いたくて電話しただけ。すぐに会えるといいな。大好きだよ」と伝言を残す(1枚目の写真)。そして歯を磨くシーンがあるが、髪は女の子みたいに長いが、4歳の頃からサーフィンで鍛えてきたので、上半身の筋肉は凄い(2枚目の写真)。そして、ベッドに入る。一方、父の大麻農園には、突然、警察の警告灯を付けた自動車がやって来て、1人の私服警官が拳銃を向けて逮捕すると威嚇するが、それは、昔から付き合いのある汚職警官キースだった。そして、その横に座っているのは、彼の上司の警部補のデレク。キース以上に悪い警官だ。キースは、ボッシュに袋に入ったコカインを渡し、「コロンビア産。最高にピュアだ。あんたのために特別に取っておいた」と言う。ボッシュは呆れた顔で、「こんなもん、俺にどうしろと言うんだ?」と訊く。「カットして、倍にして売るんだよ。あんたも、そろそろボロ儲けしたっていいからな」。ボッシュは、コカインを投げ返し、「俺はこんなクソは扱わん。知ってるだろ?」と、こんな話を持って来たキースを責める。すると、問題ありと判断したデレクが、「まだ、ごちゃごちゃ言っとるのか」と、ボッシュに文句を言う。ボッシュが、「何だと?」と反撥すると、「うるさい、黙れクソが。俺のプレゼントをとっとと受け取って、さばけ」と命令し(3枚目の写真)、キースから受け取ったコカインを投げ渡すと、返事も聞かずに車で立ち去る。ボッシュは、相手がキースなど問題にならないくらい腐った、麻薬の密売にどっぷりと漬かった悪徳警官だと悟ると、仕方なくコカインを金庫に入れる。そして、友だちだったくせに、ボッシュの麻薬栽培をデレクにバラしてしまったキースにつかみかり、「このクソ野郎、何を考えてる? 俺たちは農夫だ。コカインは売らん。分かったか?」と怒りをぶつけるが、受け取ったコカインをどうするかはボッシュも分かっていない。

家に戻ったボッシュは、ベッドで寝ているロケットに声をかけると、ロケットが笑顔になる(1枚目の写真)。そのまま、ベッドに腰を降ろすと、「学校はどうだった?」と訊く。ロケットにとっては、一番イヤな話題なので、肩をすくめただけ。「どういう意味だ?」。ロケットは笑ってごまかす。そこで ボッシュは、「サーフィンしたか? ポンピング〔波を長く乗るつぐテクニック〕は? チューブ〔チューブライディングができるようなトンネル状の波〕はあったか?」と立て続けに訊き、ロケットは笑顔になる。そのあと、真顔に戻ったロケットは、「ママは、いつ帰ってくるの?」と訊く。返事は 「俺にも分からないんだ、相棒」。ボッシュに、その気のないことが分かると、がっかりしたロケットは、反対側を向いてしまう。そこで、ボッシュは、ロケットの機嫌を直そうと、「明日、サーフィンに行くってのはどうだ? 日の出前に起きよう。風は凪いでるし、イルカがちょうど起きる頃だ。空気にも水にも魔法がかかってる」と誘う(2枚目の写真)。「でも、すごく早起きしなくちゃいけないよ」。「ああ、日の出のずっと前だ。どう思う?」。ロケットは笑顔に戻る(3枚目の写真)。

翌早朝、早起きしたロケットが、まだ真っ暗なボッシュの寝室を覗くと、ぐっすり眠っている。部屋も簡単な方法〔鍵でなくフック〕だがロックされていて、ドアが開かない。そこで、ロケットは薄い板をドアの隙間に入れ、フックを持ち上げて外し、ドアを開けると、「パパ、日の出前に向こうに着くって言ったじゃない」と声をかける(1枚目の写真)。「早く、パパ、波でポンプングだ。今すぐ出ないと」。しかし、昨夜遅くまで、若い女性(仲間たちと農園の小屋で一緒にいた)と一緒に寝ていたボッシュは、「ベッドに戻って、そこでポンピングしてろ」とボソボソ。「昨夜、約束したじゃない」。寝ぼけたボッシュが、「一人で言って来い」と枕を投げつけると、ロケットは投げ返して、「起きて! 行こう!」と足を引っ張る。次のシーンでは、何と日の出前に、海に向かって走って行く2人の姿が映る(2枚目の写真)。このあとロケットは思う存分サーフィンを楽しむ。その中で、1つだけシーンを取り上げると、オフザリップ〔波のトップでのターン〕の瞬間(3枚目の写真)。この直後、水しぶきが高く上がる。

海から上がってきたロケットに、先に休んでいたボッシュが、「今日は学校あるのか?」と訊く(1枚目の写真)。「あるけど、サボるよ」。それを聞いたボッシュは、「なあ、相棒、今年だけで百回は電話があったぞ。学校は何時に始まる?」と訊く。「8時半」(2枚目の写真)。時計を見たボッシュは、「ダメじゃないか、ほら、行くぞ」と言う。「やだ」。「なんで?」。「学校、嫌いだ」。「どうして?」。「僕のこと、ダム・ダム〔Dum Dum〕って呼ぶんだ」〔dumb(バカ)を意識したあだ名〕。「なんで “ダム・ダム” なんて呼ぶんだ?」。「ちゃんと読めないから」。それに対するボッシュのアドバイスは、「いいか、虐めっ子について俺が何て言ったか覚えてるか? 次にその悪ガキが何か言ったら、手近にある一番大きなものを掴んで、そいつを叩きのめしてやれ」。「でも、誰もケガさせたくない」。ボッシュは、ロケットの首筋を軽く叩くと、「お前さんは、俺よりずっと賢い。俺なんか一度も(学校に)行ったことがない」。「ないの?」。「好きだから、ずっと農場で過ごしてきた」。「パパ?」。「何だ、相棒?」。「『魔法』って言ったよね。どこにあるの?」。「お前さん、感じられんのか? あらゆる所にある」(3枚目の写真)。そう言うと、「どべは腐った卵だぞ」と言い、自転車に向かって走り出す。

学校での唯一のシーン。奇跡的に間に合ったロケット。そこに担任が入って来る。「お早う、皆さん」。「お早う、カズンズ先生」。担任は、「さっそく、みなさんの課題を見せてもらいましょう」と言い、「ロケット、あなたから始めて」と言う。宿題など全くやってないロケットは、「ビスケッツが食べちゃいました、カズンズ先生」と答える(1枚目の写真)。「ビスケッツって何です?」。「僕の犬です、先生」。後ろに座っている虐めっ子が、「彼は、犬なんか持ってません」と言い、ロケットは振り向いて、「持ってるよ」と反論し、虐めっ子は 「(課題なんか)やってないんです、先生。校庭で僕にそう話しました」と言い付けるが、教師は、「私は、あなたに訊いてませんよ、タズ」と虐めっ子を戒め、ロケットに、「あなたは、課題を終わらせたの、まだなの?」と尋ねる。「やってません」。タズ:「ダム・ダムは、本すら読めません」。教師:「タズ、誰もあなたに訊いてません」。教師は、クラス全員に、「課題をやってきた人は手を上げて?」と問いかける。生徒数は僅か9人だが、ロケットを除く全員が手を上げる。授業が終わり、ロケットが自転車で帰ろうとしていると、タズが立ち塞がり、「おい、ダム・ダム、お前、女の子か? 女の子みたいに膣があって、タンポンしてるのか?」と侮辱する。「失せろ、性悪(しょうわる)」。タズは、「それは、お前だろ」と言うと、ロケットの自転車を奪って倒し、さらに、「いまだに、ちゃんと読めないのかよ、ダム・ダム」と言うと、ロケットを地面に投げ飛ばす(2枚目の写真、矢印は自転車用のワイヤーロック?)。ロケットは、ボッシュに言われた、「手近にある一番大きなものを掴んで、そいつを叩きのめしてやれ」の言葉を思い出し、立ち上がると、ワイヤーロックを握った手でタズの顔を殴る。ロケットは、サーフィンで体を鍛えてあるので、腕力は凄く、タズは吹っ飛ぶ。運の悪い事に、担任のカズンズは、最初の虐めの部分は見ておらず、ロケットがタズを殴り倒したところだけを目撃する(3枚目の写真、矢印)。それに気付いたロケットは、自転車に乗って逃げ出す。

ロケットが、途中、砂浜で時間を潰し、薄暗くなってから家に帰ってくると、待っていたボッシュが、「今日、学校から女性の方が来られた。何があったのか、話してくれんか? 入院したガキについてだ」と訊く(1枚目の写真は、その時のロケット)。ロケットは 「ダム・ダムでいたくない」と答える。「何のことだ、お前さんはダム・ダムじゃない。何も学ぼうとしないんだ。一日中サーフィンやってて、どうやったら何かを学べる? なぜ、俺が、学校に行けと言ったと思う?」と、彼にしては珍しく叱る。「行ってるよ。うまく読めないんだ」。「なぜ、うまく読めない?」。「助けてくれたのは、ママだけだった」。そう言うと、ロケットは席を立ち、自分の部屋に行きベッドに横になる。そこに現れたボッシュは、「週末は忙しくて家にいない」と告げる(2枚目の写真)。二重の仕打ちに、ロケットは、「ママは戻って来る?」と訊き、「そうは思わん」との気のない返事。翌日、自転車で海に出かけたロケットは、岩礁の海に入ると、そこに横たわって、どうにもならない気分を抑えようとする(3枚目の写真)。

細い木の棒で魚を狙っていたロケットが、ふと顔を上げると、湾を挟んだ対岸で大きな山火事が起きていた(1枚目の写真)。それは、ボッシュの農園のある場所で、遅くまで家で寝ていたボッシュのところに電話が掛かってくる。ベッドで寝ていたボッシュが電話を取ると、「大きな山火事が、あんたの農園に向かってるぞ」という警鐘。それを聞いたボッシュは、全速で車を飛ばして農園に向かう。彼が農園に着いた頃には、火が近くまで燃え移ってきていたので、小屋に飛び込んだボッシュは、取り敢えず金庫の中身を車に移そうと、焦りのため何度も失敗して金庫を開ける。そして、中身の、①家族3人の写真、②多額の現金、③処分に困ったコカインのビニール袋の3つを取り出す。そして、それをバッグではなく両手に抱えて逃げ出そうとして、火災から逃げて家に入って来た大きな蛇とぶつかりそうになり、コカインのビニール袋をうっかり放り上げてしまい、それが天井にあったシーリングファンにぶつかって袋が破れ、コカインが部屋中に飛び散る(2枚目の写真、矢印)。おまけに、手に持っていたお札の多くも飛散。火災が間近に迫っているので、ボッシュは、残り少なくなった現金を持つと、乗ってきたスポーツタイプのマスタングは乗り捨て、トヨタのランドクルーザー60〔映画の設定は1980 年代後半〕に乗り換えて農園を逃げ出す。ロケットが、まだ岩礁にいると、上からボッシュの声がする。「ロケット、行くぞ!」(3枚目の写真)。「あと、5分だけ」。「ダメだ、今すぐ車に乗れ!」。「パパ、マスタングはどうしたの?」。「説明してる時間はない」。「どこに行くの?」。「黙って、車に乗れ!」。「いったい何が起きたの、パパ?」。車が走り出すと、ロケットが、ボッシュの肩についた粉を、「この白い粉どうしたの?」と触ろうとするので、「触るんじゃない」と止め、指に着いた粉の臭いを嗅ごうとしたロケットの手を、「嗅ぐな!」と払い除ける。「どうしたの?」。「何でもない、相棒、心配するな」。「僕たち、どこに行くんだよ?」。「ちょっとは俺に考えさせろ」。結局、ボッシュは、バイロン・ベイ〔サーフィンのメッカ〕に長期の休暇旅行に出かけることにしたと話す。行き先がバイロン・ベイなので、ロケットの杞憂は消し飛び、喜びと期待に変わる(4枚目の写真)。

ボッシュは、滞在先も決まっていないので、取り敢えず、バイロン・ベイの海岸に車を停める〔Byron Bayは、ブリスベンの南南東約140キロ、シドニーの北北東約620キロのオーストラリア東海岸にある〕。どのくらいの距離を走って来たのかは、出発点が分からないので何とも言えないが、ロケットは疲れて眠ってしまっている。ボッシュは一人で海に入り、コカインを完全に洗い落として戻ってくると、ロケットを起こす。ロケットは、初めて見るバイロン・ベイなので、「来たんだ!」と大喜び(1枚目の写真、車の上にサーフボードが乗っているのは、ボッシュが一旦家に戻って必要な物を取って来てから、ロケットを迎えに行ったから)。ロケットは、初サーフィンをしたがるが、ボッシュは波が小さいから明日まで待てと言う。「大きなホテルに泊まるの?」。残金があまりないボッシュは、「なんで砦を作らん?」と提案し、ロケットは、「ガンニャ〔アボリジニの伝統住居〕のような?」と、興味津々(2枚目の写真)。右の写真は、https://
mapio.net/
にあったアボリジニのガンニャ。「そうだ」。「どこに?」。「ビーチに」。結局、ボッシュは、持って来たシートの両端に ガンニャ風に木の棒を立て、簡単なテントを作ることを提案する。そして、辺りは暗くなり、2人は焚き火を起こし、雰囲気に浸る(3枚目の写真)。

そして、翌日は、この映画の中で最も見事なロケットのサーフィンが見られる。1枚目の写真は、沖合に向かって泳ぐシーン。2枚目は長く波に乗り続けるシーン。3~6枚目は連続シーンで、3枚目ではオフザリップのために波の頂点に向かい、4枚目では頂点で回転を始め、5枚目では90°ほど回転し、6枚目では大きな飛沫とともに180°の回転をほぼ終えている。バイロン・ベイは、波が大きいので、技が見事に光る。映画の冒頭に挿入されたチューブライディングを真正面から捉えたシーンも、この時のもので、6枚目の写真の後に、もう一度同じものが見られる。プロの少年サーファー、ラスムス・キングを主役に抜擢しただけのことはある。

その間、ボッシュは、“テントの近くに三脚を立てて海に向けてカメラを構えていた女性” に寄って行き、シャッター押した瞬間にレンズの前に顔を出して撮影の邪魔をする。「何するのよ?」。「ごめんよ。何 撮ってるんだい? 俺の男の子を こっそり撮ってたとか?」と、笑顔で変な質問をする(1枚目の写真)。「誰を? あなたのイマジナリー・フレンド?」。「いいや、俺の息子だ。そこでサーフィンやってる」と言いながら、2つ持っていたカップ・ドリンクを女性に差し出す。女性は、「ミルクセーキなんか持ってると、小児性愛者〔rock spider〕みたいに見えるわよ」と冷ややかに言い、ボッシュはテントに引っ込む。一方、署内では、悪徳警官デレクが、“ボッシュの農園の小屋の火災現場に散乱した焦げた札とコカインの粉末” の写真を見ながら、部下のキースに 「警察の半分が奴を捜してるから、見つかる前に奴を捕らえるんだ」と発破をかける〔捕まって、ボッシュに自白されたら、デレクは恥ずべき麻薬警官として大ニュースになり、重罪で逮捕される〕。キースは、「彼は、俺たちのことバラしたりしませんよ」と言うが、デレクは 「とっとと出かけて、必要なことをしろ」と命じる(2枚目の写真)。一方、海岸では、女性が引き上げようとした時、片方の足ひれ〔スキンダイバー用の〕を落としていき、それをボッシュが後を追って渡したことで、再び会話が始まる。「こんなトコで何してるの?」。「砦を作ったんだ」。「砦? あなた、ホームレスなの?」。「いいや。息子と一緒にのらくら過ごしてる。休暇旅行なんだ」。そして、「この辺で、どこか滞在できるトコ、知ってるとか?」と訊いてみる。「あなたとイマジナリー・フレンドが、この仮設のテントでの暮らしにうんざりしたら、セイルズ・モーテルを当たってみたら? 道を下ったトコよ」。

ロケットが戻ってくると、ボッシュはすぐにセイルズ・モーテルに行く。車から半身乗り出したロケットは、「ここ、何なの?」と訊く(1枚目の写真)。「相棒、サーファーのホテルさ」。「新しいサーフボード買っていい?」。「そこにあるだろ?」。「だけど、僕たち休暇旅行中だ」。「ダメだ」。フロントの初老の女性は、「娘が、ハンサムな男が来るかもしれないって、言ってましたよ」と、笑顔で言い、それを聞いたボッシュも笑顔になる。そして、すぐ後ろに飾ってある、海洋生物を撮った写真の額を指して、「あれは、娘さんが撮ったんでしょ?」と尋ねる。「ええ、デブはいい目をしてるの」。そして、「お一人の部屋をお探し?」と尋ねる。すると、それまでカウンターの下に隠れていたロケットが急に立ち上がり、「それに、僕」と言う。「何てお名前、坊ちゃん?」。「ロケット。パパと僕は、休暇旅行中なんだ。ここ、ブレッキー〔朝ごはん〕ある? お腹ペコペコ」(2枚目の写真)。ボッシュは、「相棒、ちょっと黙っててくれんか」と言うが、ロケットは、「部屋の窓からビーチ見える?」「ここって、ルームサービスあるの?」と際限がないので、ボッシュは 「話すのは俺だ」と言い、「これで3ヶ月はどうかな?」と言って、持っていたお札の中から3分の1ほどを取り出してカウンターに置く。十分な金額だったと見えて、即OK。しかし、その後も、ロケットは 「ねえ、毎朝、新しいタオル出してくれるの?」と訊き、「いい加減にせんか、このトラブルメーカー」と叱られる。「何だよ、聞いてるだけじゃんか?」。「黙れ、クソガキ」。この言葉に怒ったロケットは、出て行く。

部屋に入ったボッシュは、カミソリで顔を剃っていて切ってしまい、「何て、クソ ウザイんだ〔fucking cunt〕」と、最悪の汚い言葉で自分を罵る。それを聞いたロケットは、ドアの外から振り向いて 「ウザイな〔cunt〕、何だよ、そのクソ〔fucking〕言葉」と、同じ汚い言葉で言い返し、お互い 口の汚さに呆れる。そのまま、ロケットがドア前のイスに座り、足を反対側のイスの上に投げ出していると、そこに、隣の部屋から使い済みのタオルを回収したデブが出て来て、「ハイ」と声をかける。ロケットは、まさか自分に声をかけたのではないと思い、後ろを振り向くが誰もいない。デブは笑うと、「あなたに話しかけたのよ」と言う。そして、「パパは中?」と訊くが、ロケットは肩をすくめる。「あなた、彼の息子さんよね?」。「うん」。「名前、言ってくれる?」。「いいよ」。「ハイ、『いいよ』君」(1枚目の写真)。「名前は、ロケットだよ」(2枚目の写真)。「ロケット、好きだわ。誰が付けたの?」。「ママ。すぐここに来るよ」。そう嘘をつくと、部屋の中を振り返り、「パパ、チック〔女の子〕が、会いに来たよ」と教える。ドアの所に現れたデブを見て、ボッシュは、「お礼に、ディナーとワインを一緒させていただければ、光栄なんだが」と、丁寧に誘う。「あなた、何世紀から来たの?」。「君と同じ世紀さ」。デブは、快くOKする。デブが去ると、ロケットが入って来て、ホテルで最初の夜に、自分を放っておいて女性に媚びるボッシュに不満をぶつけるが、ボッシュは、「お前さん、午前中ずっとサーフィンしてたろ。明日は、一緒にやろう。約束する」と言って宥める。「その方がいいよ、パパ。僕たち、休暇旅行中なんだから」(3枚目の写真)。「分かってるって、相棒」。

そのあと、ボッシュは、「お金をそこからちょっと取って、映画でも観に行くとか、アイスクリームを買うとかしろよ」と言う。「どこに行ったらいいか 分かんない」。「行きたい所に行けばいいんだ。お前さんみたいな男の子〔little bloke〕にとって、世界は思いのままだ〔world is your oyster〕。だが、真夜中までは戻ってくるんじゃないぞ、相棒」。ボッシュが奥に消えると、ロケットは入口に置いてあったお札のほとんどを手に取ると(1枚目の写真、矢印)、部屋から出て行く。そして、ランドクルーザーの後部に置いてある自分の自転車を出そうとするが、バックで、しかも階段の手すりぎりぎりに停めてあるので、バックドアを開けるどころか、体を入れる隙間もない。助手席のドアから出そうとしても無理。そこで、ロケットは生まれて初めて運転席に座り、何とか動かそうとする。それを見ていた宿泊客の女の子が、「そんなことやっちゃダメ」と注意し、「放っとけよ」と言われる。そして、何とか周辺に邪魔物のない場所まで車を出すと、バックドアを開けて自転車を取り出す。すると、さっきの子が寄って来て、「どこ行くの?」と訊く。「町まで行って、用事を済ませる」(2枚目の写真)。「どんな?」。「プロになるから、新しいサーフボード買うんだ。それに、フライドポテトなんかも」。「フライドポテト? 一緒に行っていい?」。「どこに町があるか知ってる?」。「当たり前じゃん。あたしアシュレイ。アシュって呼んで」(3枚目の写真)。「僕はロケットだ。だから、ロケットと呼べよ」。「OK」。アシュは、自分の自転車に乗ってロケットに付いて行く〔予め 道を教えた?〕。後ろを走りながら、アシュは、「あんたの髪、あたしのより長い」と言う。「そうかい?」。「手入れしたことあるの?」。「ううん、時々、寝る前に洗うだけ」。「あんたの故郷で、散髪したことないの?」。「短い髪のプロのサーファーなんか、知ってるかい?」。

サーフボードの専門店に着いたロケットは、ツインフィン〔サーフボードのフィンが2枚のもの〕のボードに限定して探し始める。そして、特別に展示してあったボードが気に入り、カウンターまで 立てて持って行くと、それに気付いた店主が飛んで来て、水平に持ち直し、「ボードを揺らしながら、そんな風に店の中を運ぶなんて」と文句を言う。そして、ロケットが 「このボード買うよ」と言うと、「ダメだ。若いサーファーのもんじゃない。モノポリーゲームの紙幣じゃ買えないぞ。帰れ」と けんもほろろ。ロケットは、持って来た札束を見せ、「これがゲームの紙幣に見えるかい?」と言う(1枚目の写真、矢印)。アシュは、「それに、ロリポップ〔ペロペロキャンディ〕2本もね」。店主は 「ワックスも要るか?」と訊き、ワックスを渡すが、ロケットは「こんなんじゃダメだ。sex wax〔1960年代に開発されたグリップ力がアップするワックス〕だ」と、プロ志願者の意地を見せる。その頃、ボッシュは、かつての大麻仲間に電話をかけ、デレクが嗅ぎ回っていると知らされる。ロケットとアシュは、テイクアウトの店に入り、大量の注文をし、20ドル〔1980年代後半の為替変動率は激しいが、仮に1987年とすれば、当時の約2000円(≒現在の2400円)〕と言われる。ロケットは、残りの札束から20ドルを数えて渡すが、子供の割に大金を持ち歩いているので、店員はびっくりする。2人は、海岸を見下ろす展望台の屋根に上ると、買ったばかりのツインフィンの上に紙を敷いて食べ物を山積みにし、ひたすら楽しむ。ロケットは、「黒と白とピンクで、木に止まってるもの、何だ?」と訊き、アシュが 「分かんない」と言うと、「太ったカササギ〔magpie〕」と答え、それを聞いたアシュが笑い出し、その反応を見たロケットも笑う(2枚目の写真)〔カササギは黒と白の鳥なので、なぜピンクと太ったで2人がバカ笑いしたのかは謎だが、背後の景色が美しいので選んだ/magpie には、おしゃべりな人、とか、収集癖のある人という意味もあるが、そうした人で太った人も映画にはいない〕。その後、2頭のクジラが映り、夕陽の黄色の光の中を 自転車を牽きながら歩く2人が映る。アシュが、「流れ星見たことある?」と訊き、ロケットは 「ないよ」と答える。「もし見たら、願い事するのよ」。そして、自転車を置いて、ロケットは木の柵に座り、アシュは柵にもたれると、アシュが、「いつまで休暇旅行でいるの?」と訊く。「3ヶ月」。「そんなに?」。「パパが自分でそう言ったんだ」。アシュは、自分の休暇が3週間だけだと話す。しかも、両親は、何れも養父母〔実母は重病、実父は行方不明〕。アシュが、そろそろ帰る時間だと言うと、ロケットは、「もうちょっといてよ。流れ星が見えるまで」と頼む(3枚目の写真)。2人は、薄明かりが残る時間になって、ホテルまで戻る。ロケットは 「付き合ってくれてありがとう、アシュ・アシュ」と言う。「なぜ、アシュ・アシュって呼ぶの?」。ロケットは、アシュの両方のスニーカーの裏に「ASH」と白い字で書いてあるので、それをつなげて呼んだと話す〔アシュが、児童養護施設にいた時、盗まれないように書いた〕。今度はアシュが、「なぜ、ロケットなの?」と訊く。「知らない。でも、パパは、僕がとびきり素晴らしい〔out of this world〕からだって 言いたがるんだ」。「カッコいい。あんたが休暇でここに来てくれて嬉しいわ」。それを聞いて、ロケットはニッコリする(4枚目の写真)。2人は軽く抱き合って別れる。

ボッシュに、「真夜中までは戻ってくるんじゃないぞ」と言われているので、ロケットは、部屋の前で時計を見ながらじっと待っている(1枚目の写真)。帰ろうとしたデブは、真夜中に近いのにロケットが帰って来ないので、心配して、「ロケットはどこ?」とボッシュに訊く。ボッシュは、「たぶん、プールかどこかにいるんだろ」と言って、自分が戻るなと指示したことは隠す。デブが出て行くと、ボッシュは車の中で寝ているロケットに向かって歩いて行き(2枚目の写真)、申し訳ないことをしたと後悔しつつ ロケットを背負って部屋に運んで行く。目を覚ましたロケットは、その途中で、「パパ、新しいボード買っちゃった」と言う。車の中で、ロケットは新しいボードを抱いて寝ていたので、ボッシュはその時点で気付いている。だから、「見たぞ」と答える。「怒ってる?」。「最高の奴か?」。「うん。一番高かったけど」。ボッシュは、ドアを入ってすぐのソファにロケットを寝かせる。しかし、そんなところで寝るのは嫌なので、ロケットはダブルベッドの片側に上がると、ボッシュのお腹に左腕を置き、ボッシュがその腕に左手で優しく包む(3枚目の写真)。「パパ」。「何だ、相棒?」。「僕のパパでいてくれてありがとう」。「俺の息子でいてくれてありがとう」。

翌日は、朝から、2人はサーフボードを抱えて海に飛び込む(1枚目の写真)。そして、サーフィンを満喫する(2枚目の写真)。夕方になると、ロケットはアシュと草の生えたレールの上で遊ぶ。翌々日(?)、ロケットは、ボッシュとデブと一緒に海に行き、野外テーブルの上に座ってテイクアウトの簡単な昼食を取る(3枚目の写真)。

次のシーンでは、サーフボードを持ったロケットが、水着姿のアシュと ビーチで、楽しそうにじゃれ合う(1枚目の写真)。そして、一緒に海に入り、アシュをボードに乗せて、サーフィンの手ほどきをする。そして、夕方になると、またレールの上で遊ぶ(2枚目の写真)。その次の日、野外テーブルの上でボシュがデブを抱いて仲良くしていると、ロケットが不愉快そうな目でそれを見ている(3枚目の写真)。その後、部屋に戻ったボッシュが、残り少なくなった現金を、心配そうに数えている短いシーンが入る。

デレクが特大のボルトクリッパーを手に持って、ボッシュの大麻仲間の家を訪れる。そして、恐らく翌日、仲間に電話をかけたボッシュは、衝撃的な話を聞かされる。「デレクが俺の家までやって来て、あんたの居場所を教えないと、俺の家内とガキどもを殺すと言ったんだ」と、指を1本切断され包帯で巻いた手で電話を持ちながら、その残酷さを訴える(1枚目の写真、矢印は血の付いた包帯)。「悪かったな相棒。いいか、これは最悪だ。お前は 奥さんと子供たちを連れて、どこかに身を潜めるんだ」。「こんなの メチャメチャだ」。「俺も、解決策を探してみる」。ボッシュが何をしようとしたのかは全く分からないが、彼はロケットを連れて車でどこかに向かう。急いで連れて来られたためか、ロケットは車内で何かを食べている(2枚目の写真)。そして、「パパ、デブのこと愛してるの? ママよりも?」と訊く。「愛ってのは複雑なんだ、相棒。説明が難しい」(3枚目の写真)。「どうして?」。「複雑だから」。「試してみたら?」。「心で思っていても、身近にいない人っているだろ」。ボッシュが、こう説明していると、後ろからパトカーが接近して、サイレンを鳴らしたのに気付き、「くそ、くそ、くそ」と言いながら、最初に見つけた空き地に車を停める。そして、ロケットには、「相棒、黙ってるんだ。変なこと言うんじゃないぞ」と注意する。

パトカーから降りてきた警官は、免許証と登録証を要求する。どちらにもボッシュの名前が書いてあり、彼は指名手配されているので見せられない。そこで、「さっきサーフィンを終えたトコだ。きっと、グローブボックスから盗まれたに違いない」と嘘をつく。警官は、名前と生年月日を要求する(1枚目の写真)。「ロバート・ウィルソン。1971年1月1日」。これには、ロケットも驚くが、映画を観ている方も驚く。映画の設定年代は、冒頭に書いたように、 映画製作会社の「あらすじ」の「1980 年代後半を舞台に」に従うと、1971年生まれでは、ボッシュが何と10代後半になってしまう〔実際は40歳〕〔そうした意味で、改めて全体を見回すと、この映画には携帯が一切登場せず、古い形の固定電話しかないので、その点では1980年代後半は正しい。しかし、後で指摘するように、ロケットが母の家に連れて行かれた時に映るゴールドコースト(Gold Coast)の街の高層ビル群はまさに現代のものだし、病院には液晶式のモニターがあり、ロケットが「インターネット」という言葉を吐く。この4点は、製作者のうっかりミス〕。次に、警官は、ロケットにも名前を訊く。ボッシュが仮名を言ったので、本名を言ってはいけないのだと思ったロケットは、よりによって「グル」〔ヒンドゥー教の導師〕と言う。困惑した様子の警官に、ボッシュは 「彼のママがヒッピーだったから」と弁解する。警官が、調べるためにパトカーに戻ると、ボッシュは、「グル・ウィルソンだと? 正気か?」と責め、逆に、ロケットは、「深海って意味だよ! なんで嘘付いたの?」と責める(2枚目の写真)。「いいか、俺の言うことをよく聞いてくれ。これまで俺の仕事について話したことは一度もない。実はだな… 俺は キウイ〔ニュージーランド〕政府のスパイなんだ。そして、あいつは、卑劣なロシア野郎。悪い奴なんだ」と、見え見えの嘘を付くが、素直なロケットは、「スパイなの? ジェームズ・ボンドみたいに?」と 大喜び。「そうだ。あいつは、信用できん。ロシア人だからな」(3枚目の写真)。そこに、警官が戻って来て、2人の名前は虚偽でデータになく、車は指名手配されていると告げ、ボッシュを車から引きずり出して、犯罪者のように車体に押し付ける。その時、警官の無線機から声が聞こえてくる。「コード1〔緊急事態、サイレンを鳴らして急行〕。警官に発砲した模様」。警官は、直ちに、「逃走車の進行方向は?」と訊き、「南」と即答を得たので、2人にこの場を離れないよう警告し、逃走車の追跡に向かう〔逃走車がいた場所も言っていないので、今いる場所との位置関係は不明なのに…〕。2人だけになったボッシュは、これ幸いと逃げ出す。

ボッシュは、ホテルに近い目立たない場所に車を停めると、「何もかも持って、引き揚げるぞ」とロケットに言い、サーフボード、バッグ、タオルなどを抱えて車を離れると(1枚目の写真)、ホテルに向かって全速で走り出す。「車はどうなるの?」。「あきらめろ」。翌日、窓を締め切った部屋の中で、ロケットは、「パパ、昨日の警官、悪者だってどうして分かったの? ひょっこり現れただけなのに」と、答えにくい質問をする。ボッシュは、答えを回避し、「なあ、相棒、休暇旅行の残り、お前さんのママと一緒ってのはどうだ?」と、ロケットが喜びそうな提案をする(2枚目の写真)。「ホント?」。「ああ、楽しく暮らしてるぞ。大きな家で」。「僕たち、一緒に暮らすの?」。「いいや。俺は仕事に戻る」。「僕、何か悪いことした?」。「相棒、俺はな、やりたくないことを たくさんやらにゃならんのだ」。「僕を怒ってるんじゃないの?」。「いいや。ただな… スパイって仕事は、安全じゃないんだ」(3枚目の写真)。

ロケットは暗くなるまで海で悲しく過ごし、その後、プールサイドにいたアシュの所に行く。アシュが、悲しそうな顔をしているので、「どうしたの?」と訊くと、「明日、家に帰るの」と寂しそうに言う。「遠いの?」(1枚目の写真)。「126km。あんたは、唯一人の友だち」。「アシュ・アシュ、ここにいる男の子は、僕だけだよ。家に戻れば、友だちなんかいっぱいいるんだろ?」。「あんたは、一番の友だち」。ロケットは、「遠く離れてたって、これからも、君の一番の友だちだよ」と 優しく言う(2枚目の写真)。「いつか、会いに来てくれる?」。「あたりまえだろ」。「あんたの髪、編ませてくれる?」。「まあね」。「今すぐよ」(3枚目の写真)。

次のシーン(深夜)。デレクは、キースに 「奴は、バイロン・ベイにいる」と話す。彼は、もちろん、警察が昨日ボッシュを取り逃がしたことも知っている。ボッシュは、そのキースに、窮状を打開してもらおうと、彼が勤務している警察署に電話をかける。キースは、「あんたの状況は分かる。だが、どこかで一度会わないと。少しだが資金は用意した。急がなきゃ」とだけ言って(1枚目の写真)、電話を一方的に切る。次のシーンでは、ホテルで、デブがボッシュに、「彼〔キース〕、信用できるの?」と尋ねる。ボッシュは、「俺は、あいつと一緒に育った。何とか解決しないと。いつまでも、逃げ続けられん」と言う。デブは、「私のトラック、貸してあげる」と言ってくれる。3番目のシーンは、部屋で。ボッシュが部屋に入って行くと、アシュに髪を編まれたロケットを見て、「よお、相棒。その髪 好きだぞ」と、何事にも前向きに褒める(2枚目の写真)。そして、「俺は、今から出かける。いいな?」と訊く。「ママの所に行くんじゃないの?」。「予定変更だ、相棒。デブが来て、相手してくれる。秘密の任務なんだ〔I've got to see a man about a dog〕。「それって、スパイの暗号?」〔ロケットは、“I've got to see a man about a dog” を文字通り、「犬のことで男に会いに行く」と解釈したのかも?〕。「なあ、訊いてくれ、相棒。時として、人生じゃ、運が好転する前に悪化することがある。だが、お前さんを愛していることは 覚えておけよ。いつも愛してる。何があろうとだ」。そう言って、ロケットを抱きしめると、ボッシュはトラックを運転してキースに会いに出かける。4番目のシーンは、ひと気のないガレージの前。トラックから降りたボッシュに、キースはコカインを吸うよう勧めるが、ボッシュは断る。キースは約束の薄い札束をボッシュに渡すと、「なあ、俺は、この件をもみ消そうと頑張ったんだ。だが、これは奴らが出くわした、最も面倒な事件だった」と言い訳をした後、「デレクが銃で殺そうと、あんたを追いかけてる」と注意する。そして、「ところで、あれはどうなった? コカイン。彼の金だ」と訊く。「火事で失くしたことぐらい、知ってるだろ。俺の残りの人生〔大麻作り〕と一緒に消えちまった」。「ああ」。「じゃあな、相棒」。キースは、ボッシュが背を向けると拳銃を取り出し撃とうとする〔デレクの命令〕。しかし、彼には、幼い時からの友達を撃つことなどできない。キースが面と向かって、「撃つんだ、相棒」と何度も呼びかけても撃てない(3枚目の写真)。最後には、ボッシュがキースの拳銃を奪い、何度も顔を殴って気絶させ、“殴られたから撃ち殺せなかった” という口実を与えておいて、立ち去る。

あくる日、ロケットがいつものテイクアウトの店に入っていると、デレクが入って来て、「男を捜してる。警官を殺そうとして、指名手配中だ」と話す。昨日、パトカーの警官の無線の「警官に発砲した」云々を聞いていたロケットは、振り返って男の方を見てみる(1枚目の写真、矢印)。男は、写真を店員に見せるが、店員は見たことがないと言い、デレクは、見掛けたら連絡するように頼んで店を出て行く。注文が出来たので取りに行ったロケットが、デレクの置いていった写真を見ると、それは何とボッシュだった(2枚目の写真、矢印)。ロケットは、全速で自転車を漕ぎホテルに戻る。そして、「パパ」と言いながら駆け込む〔昨夜中に部屋に戻って来ていた〕。すると、洗面所で デブが苦しそうな顔のボッシュに向かって、「000にかけないと」〔日本の110と119の合体〕と言っている。ボッシュ:「救急車なんか呼べるか」。デブ:「何言ってるの? ロケット、今すぐ救急車を呼んで」。ボッシュ:「電話に触るな!」。ロケットは、写真を見せながら、「パパを捜してる奴がいるよ! スパイを捜してる! パパが警官を殺そうとしただなんて!」(3枚目の写真、左の矢印は倒れそうなボッシュ、右の矢印は写真)。結局、公共機関に知られると不味いので、デブがトラックでボッシュとロケットを運ぶことに。

病院に行った3人は、ボッシュがロドニー・ジェンキンズ〔パトカーの時は、ロバート・ウィルソン〕、ロケットはグルのまま、デブはアンジェラと名乗ることにし、かつ、アンジェラとグルは、姉妹でロドニーの子供という設定で、ボッシュを入院させる。待合室にいた2人の所にやってきた医師は、ロドニーの病名を「消化性潰瘍〔胃潰瘍も含まれる〕」と説明する。そして、夜にもかかわらず、病室にいるロドニーに会うことが許可される。病室にいた看護婦は、「良くなっていますが、薬で少し眠る必要があります」と説明したあと、国民健康保険の番号〔恐らく、ボッシュが適当な番号を教えた〕でトラブルが起きたと話す(1枚目の写真)〔オーストラリアでは、公立病院は無料〕。そして、カードのコピーがないか尋ねられたので、ロケットは、ビーチで盗まれたと誤魔化す。看護婦が出て行くと、ここにはいられないので、ボッシュは何が何でも起き上がろうとする。その頃、看護婦の前にあるディスプレー〔これが液晶式〕には、再び「ERROR」の表示が出る。何もすることがない看護婦が、置いてあった新聞を見てみると、一面に、「500万ドル〔5億円〕の麻薬吹っ飛ぶ」という見出しと一緒に、ボッシュの写真が載っている。それを見た看護婦はすぐに警察に電話し、警察無線を常に傍受しているデレクは、ボッシュがバイロン・ベイ病院のICUに入院中との情報を訊くと、マイクを取り、「こちら 警部補〔Detective Senior Sergeantの正しい訳は不明〕デレク・キャンベル。これより直行する」と伝える。病室では、ロケットが、「これから、パパをピックアップトラック〔ute〕まで連れて行くからね」と言い、隣の倉庫を見ると、マネキンが置いてあるのを見てニッコリ。デレクが病院に乗り付けると、キースに病院の玄関で見張っているように言いつけ、自分は病院に入って行く。そして、看護婦に案内させて病室に行き、シーツを被せたマネキンに拳銃を向け、シーツをめくるとがっかり(2枚目の写真)。その頃、ロケットは、ボッシュのキャスター付きベッドを押して(3枚目の写真)〔夜間なので誰も廊下にいない〕、玄関の脇の救急センターの通路から出て来る。当然、キースは気付くが、見て見ぬ振り。そこに、トラックから出て来たデブが加わり、ロケットと2人掛りでボッシュを立ち上がらせて(4枚目の写真)、トラックに乗せてホテルに向かう。

翌日、3人はデブのピックアップトラックに乗っている(1枚目の写真)。そして、海の向こうに霞む摩天楼が映される〔2020年のゴールドコースト〕。トラックは、1軒の家のガレージの前で停車する。トラックから降りたロケットを出迎えたのは、母。「何て、大きくなって!」と言って抱きしめるので(2枚目の写真)、久し振りの再会だと分かる。「何て長い髪なの」(3枚目の写真。「会いたかったよ、ママ」。「私もよ、坊や」。母は、ロケットと一緒に家に入って行き、ボッシュから連絡を受けて、至急用意したロケットの部屋に案内する。そして、学校への入学手続きも済ませたし、制服も用意した、教科書は明日届くと話すが、学校はロケットにとって嬉しくない話題なので、顔が曇る。「学校に行く前にサーフィンしていい?」。「やりたいことは、何でもどうぞ。8時までに、学校に行く準備ができてればね」。これも、あまり嬉しくない制約だ。

ロケットが部屋に入ると、ボッシュが家に入って来る。別れた妻〔正式に離婚しているかどうかは不明〕は、白ワインを入れたグラスを手に持っている〔アル中〕。ボッシュは、「彼を、ちゃんと世話してくれよ。ケリをつけるまでの間だけだ」と言う。「ケリをつけるまで?」。「そうだ」。「もちろん世話するわ。あの子の母親なのよ」。「彼の人生にとって大事な時期なんだ」。「あんたが家にいない間、11年間もあの子の母親だったのよ」〔この映画の設定では、ロケットは13歳。ということは、2年ぶりに再会したことになる〕。そこに、ロケットが現われ、「ピザ、取とろうよ」と頼みに来る(1枚目の写真)。ボッシュは、「相棒、もうちょっと、2人だけにしてくれんか?」と言って、ロケットを追い払う。ボッシュは、「それ、何杯目だ?」と元妻に訊く。「1杯。これだけよ」と嘘を付く。「そんな状態で、俺たちの息子の世話ができるのか?」。「そんなこと、訊きに来たの?」。会話は険悪なムードになり、最後は、「このクソが!」。「あたしの家から、出てけ!!」で終わる。それを聞いたロケットは、部屋を出ると 「パパ!」と叫んで ボッシュを追いかけ、「さよならも言わずに行かせない!」と 抱き着く。「相棒、気楽に行こう。大丈夫だ。いいな?」。ロケットは、涙を流しながら、「あの… ごめんね、パパ」と謝る〔残り少ないお金で、高いボードを買ったから?〕。「謝る必要なんかないぞ、相棒。悪いことなんか、何もしてないんだから。いいか、これは、さよならじゃない。健康が回復するまでだ」。「僕が しくじったからだ」。「パパを見ろ。お前さんは俺を救ったんだ。それに、俺が思うに、お前さんは最高のサーファーで、秘密情報員だ。何をやらせても、ベストだと思ってる」。「別れたくないよ」。「戻ってくるって。ママさんと俺は、お前さんが天下一品〔out of this world〕だと信じてる」(2枚目の写真)。そして、ロケットの涙を手で拭うと、「待ってろ、戻ってくる」と言って出て行く。ロケットが後ろを振り向くと(3枚目の写真)、そこには、母が、見送ってらっしゃいというような顔をしたので、ロケットは、動き出したトラックの後を追って走る。

ロケットがサーフボードを持って出かけようとすると、母が白ワインのグラスを手に持って、「彼は、私を置き去りにした。以前と同じ。いつだって、こうなるの」と、半分酔って言う。ロケットは、母からグラスを取り上げると、「大丈夫だよ、ママ。僕はママが大好きだ」と言う。母は、「あんた、素敵な息子ね。あんたがいて、とても幸せよ」と言うと、一旦、ロケットが横に置いたワイングラスを手に持つ。それを見たロケットは、「ダメだよ、ママ、そんなに飲んじゃ」と、再度グラスを取り上げ(1枚目の写真、矢印はグラス)、「怖いよ」と言う。「怖い? 何が怖いの? あたしが怖いの? あんた、あたしがいてラッキーなのよ。あんたには、あたししかいないから。なぜだか分かる? あんたの父さんは犯罪者だからよ。ボッシュは、残りの人生を刑務所で過ごすわ」。これに対し、ロケットは反駁する。「そんなことない。嘘だ! パパはスパイだ!」(2枚目の写真)「僕以外、誰も知らない」。母は、笑いながら、「彼がそう言ったの? 大人になりなさい」と言う。「そっちこそ!」。「あんたボッシュの意味知ってた? ひどくばかげた画家なのよ〔初期フランドル派の異端的画家ヒエロニムス・ボッシュのこと。右の絵は、代表作『快楽の園』の右側面の中央上部〕。それを聞いたロケットは、「ママこそ、ひどくばかげた画家だ!」と怒り、サーフボードを持って出て行こうとするが、その背中に向かって、母は、「彼は、ばかげたスパイなの?」と酔っ払った声をぶつける〔最低の母親〕。ロケットは、海に行くが、水中は浮遊物で溢れている。そのせいか、ロケットは、サーフボードに体を預けて難しい顔で浮かんでいるだけ。3枚目の写真は、バーリー・ヘッド国立公園の北端にある岩礁に座ったロケットで、背景の左半分はバーリー・ビーチ沿いの高層ビル。中央右の摩天楼が人口50万超のゴールドコースト〔1980年代後半には、こんなビル群はなかった〕

ロケットがモール沿いの外側歩道を歩いていると、モールの中に、何とアシュがいる。そこで、「アシュ・アシュ!」と呼びかけ、アシュは持っていた自転車を放り出して、ロケットに抱き着く。ロケットは、「僕のママが、ここに住んでる」と教える(1枚目の写真)〔つまり、いつでも会える〕。「何か用事あるの?」。「何も」。「一緒に来て」。アシュが連れて行った先は、さっきロケットがいた海岸の5キロ南南東にあるウォーレス・ニコル公園(2枚目の写真)〔左に見える岩の岬がバーリー・ヘッド国立公園。正面は相変わらずゴールドコースト〕。アシュは、「パパは、今どこなの?」と尋ねる。「知らない」〔観客も知らされない〕「連絡がないんだ」。「ごめん。ママはどんな?」。ロケットが難しい顔をしたので、それ以上の追及はやめ、「あたし、あんたのこと、ずっと考えてた」と言う。その言葉で笑顔になったロケットは、「ママは、何だか変わっちゃった。いつも飲んでるんだ」と、悩みを打ち明ける。「なぜ? どういうこと?」。「思うんだけど… きっと、誰かに愛されたいんだ。だけど、叶わない」。「あんたが愛してあげたら?」。「頑張るよ」。そう言ってロケットは 微笑む。アシュは 「あんたに会えて、すごく嬉しい」と言い、ロケットも 「僕も」と受ける。そのあと、2人がじゃれ合うシーンが細切れで続く。そのうちの1枚が、海に向かって石を投げ合う2人(3枚目の写真)〔服装が何度も変わるので、少なくとも4-5日は経っている〕。映画の中では順序が入れ替わるが、この種のシーンの最後は、岩礁に水着で入って交わす初めてのキス(4枚目の写真)。

キス・シーンの直前に入るのが、キースが、デレクの机の中を漁って、自分とボッシュが仲良く映っている写真の入った袋を取り出す場面。その次には、そのキースの前を通って2人の捜査官が入って行き、1人がスーツケースを開けてコカインの袋を複数見つけ、デレクが逮捕される場面(1枚目の写真)〔1980年代のことは不明だが、現在のオーストラリアの法律では、これだけ大量のコカインの密売は懲役25年。しかも、それが警部補によるものなので、もっと加算されるに違いない〕。デレクは、入口にいたキースに向かって、「このクソ野郎」と言って連行されて行く〔キースは、上司を売ったことで免罪されたのだろうか?〕。この後、さっきのキス・シーンがあるのだが、その前に、アシュは、「週末に両親が出かけるから、家にいるのはあたし1人だけ。泊まりにくる?」と誘う。「もち!」。ロケットが母の家に帰ると、彼の荷物が出口近くに置いてある。「なんでここに?」と訊くと、アル中の母は、相変わらずワイングラスを手に持って、「今週末は、バック伯父さんの家に行くの」と答える。初めて聞く名前なので、ロケットは 「誰?」と訊く。「あんたの伯父さん」。「いつ、そんなこと決まったの?」(2枚目の写真)。「週末は、家族と過ごすのがいいからよ。あたしは、あんたのママだから、好きにできるの」。「だけど、明日の夜は、アシュレイと約束があるんだ。行かないよ」。「同情しないわ。ここはあたしの家で、あんたは あたしが言う通りにするの。クソガキぶるのは止めたら?」。怒ったロケットは、「あんたがクソママぶるのを止めたらね!」と吐き捨てるように言うと、置いてあったバッグを床に投げ捨て、自分の部屋にリュックを置くと、居間の電話でアシュに連絡しようとするが、ファックスに掛かった信号音が聞こえ、その時ロケットとが言うのが、ずっと以前に指摘した、「インターネットなんか外せよ、アシュ!」という、時代錯誤の台詞。次のシーンでは、ロケットが、母の運転するメルセデス(Sクラス)W116に乗せられている〔何も職に就いてないように見える母が、なぜ、父よりも立派な家に住み、立派な車に乗れるのか?〕。母は、ロケットに、「お腹空いてない? 新鮮なエビを手に入れましょうか?」と訊く。「エビなんか嫌いだ」。「伯父さんに持って行ってあげればいいじゃない」。そして、母は、途中の漁港で、漁船の男から袋一杯のエビを買う(3枚目の写真、矢印)〔重要な伏線〕

途中で雨が降り出し、バック伯父の家に着く。そのボロ屋ぶりを見て、ロケットは、「バック伯父さん、小屋に住んでるんだ」と驚く。2人は雨の中、傘がないので、濡れながら入口に向かう(1枚目の写真、矢印はエビ)。納屋にあるような重くて幅広い木の引き戸を開けると、そこが住居。ロケットは、エビを冷蔵庫に入れようとして、中がカラッポなのを見て驚く。母は、「酒屋〔bottle-o〕に行ってくるわ。すぐに戻る」と言って いなくなる。そこで、ロケットは、居間のような場所で、置いてあった雑誌を見て待つことにする。すると、ロケットは気付かないが、“伯父” が自転車で帰ってくる(2枚目の写真、矢印)。何か音がしたので、ロケットが開けっ放しの引き戸から覗くと、そこに現れたのは、何と、買い物帰りのボッシュだった。2人は、お互いにびっくりする(3枚目の写真、矢印は置手紙)。ロケットは、「これ、何なの?」と、不信感を顕わにすると、走って外に出て行く。唖然としたボッシュは、引き戸に挟んであった封筒に気付いて、中を見てみる、中には、僅かばかりのお金と、手紙が入っていた。

雨に打たれて冷静になったロケットが戻ってくると、ボッシュが料理をしている。ロケットに気付いたボッシュは、「よお、ロッキー、腹減ったか? シチューを作ってる」と、窓の外に向かって話しかける。しかし、ロケットの返事は、「あんたのクソ シチューなんか要らない」というもの。そして、濡れた髪のまま、ベランダのテーブルに置きっ放しにしてあった手紙を読み始める(1枚目の写真)。それは、ボッシュ宛で、「私には、ロケットの世話をすることができません。200ドル入れておきます。私には、これしかできません。ごめんなさい、リジー」と書いてある。手紙を見ているロケットの前にやってきたボッシュは、「お前さんのママ… 彼女は、最低の人間だな」と言う。ここからが、ロケットの見せ場。「2人とも お笑い草だ! あんたがしてることは、自分の心配だけだ! ママは、どうなってるか話してくれた! 何もかも! だから、戻って来なかったんだ! ポリから隠れるために!」。「自分のことで精一杯だったんだ、相棒」。「僕に、電話さえくれなかった! あんたは、負け犬だ!」。「したぞ」。「いいや、してない! 一度もだ! 1年間で一度もだよ!」〔まさか、1年も経ったとは信じられない。それは、ロケット役のRasmus Kingが、成長の早い時期なのに、ずっと声変わりしなくて、幼い感じのままだからであろう〕「 ママは言ってた。あんたは、国を離れない限り、残りの人生を刑務所で過ごすって! その話を、する気だった?! それとも、僕を世話する新しいトンデモプランで、僕を また学校から引きずり出して、僕の全世界をぶち壊すつもりだった?!」。「お前さんは、その時若かった、相棒」。「あんたが 休暇旅行に行くと言った時の僕は、若過ぎてなんかいない! なのに、旅行はぶち壊しになった!」(2枚目の写真)「それって、あんたが、スパイだって言った時かな?! 結局 、あんたは唯のペテン師で、嘘つきだった! あんたに僕の気持ちが分かる?! どう?! 置き去りにされ、何度も何度も嘘をつかれた気持ちが分かる?! どう?!」。「弁解の余地は何もない、相棒。俺は、良きパパになろうとした。だが、メチャメチャにしてしまった」(3枚目の写真)。悲しみで一杯のロケットは、サーフボードを持って海へ行き、サーフィンで怒りを鎮める。

ある日、ロケットは、ボッシュの小屋に来る前、母が立ち寄ったエビ漁の漁船まで自転車で行く(1枚目の写真)。船の前の板には、「甲板員〔DECK HAND〕」という文字は読めるが、あとは小さ過ぎて見えない。しかし、恐らく、甲板員募集の表示なのだろう。なぜかと言えば、ロケットが、1人しかいない船長に向かって、「この仕事に応募したい」と声をかけたから。相手が子供だと思った船長は、「わき毛はあるのか? 経験を積んでから、戻ってくるんだな」と断る。ロケットは、脇の下を見せて、「毛なら生えてるよ。経験だっていっぱいある。ずっと外で暮らしてきたから」と 主張する。「何歳なんだ?」。「セックスができる〔get laid〕年だよ。使ってみて」。この言葉に負けた船長は、次の漁の日に、ロケットを乗せて船を出す。ロケットは、どこで覚えたのか、すべての作業をてきぱきと片付けていく(3枚目の写真)。そして、夜になると、漁船の中の小さなベッドで丸くなって寝る。横には、サーフボードが置いてあるので、日中、暇なときには、サーフボードに乗って浮かんで過ごす〔沖合なので、サーフィンはできない〕

ロケットが、何日船の上で過ごしたのかは分からないが、出航した漁港に戻った時には、船長がお金を渡し 「いっぺんに全部使うなよ。3時に出航だ」と言うので(1枚目の写真)、ロケットの腕を認めたことになる。ロケットは、もらったお金で、野菜を中心に食材を買って自転車で小屋に戻ると、ランチを作り始める。そして、用意ができると(2枚目の写真)、ボッシュを起こす。そして、2人で健康食を食べる。ボッシュは、「仕事は どんな具合だ?」と訊く。「きつい」。「好きか?」。「うん。大物の魚を捕ったり、エビを山ほど。昨夜は、大きなサメが何匹も船の回りを泳いでた。サーフィンをしたくなくなるね」。ここで、ロケットは話題を変える。「デブは、どうなったの?」。「ドジっちまった。ランチ作ってくれて、ありがとよ」。「あんたのクソ シチューを食べたくなかったから、作っただけ」。「俺だって、食いたくない」。「大好きだよ、パパ」。(3枚目の写真)。「俺も好きだぞ、相棒」。

次のシーンでは、ロケットは船の操縦を任され(1枚目の写真)、船長に気に入られて、頭をくしゃくしゃに撫でられる(2枚目の写真)。3枚目の写真は、ボッシュが、自転車の前にロケットを乗せて、一隻の漁船の前まで来た場面。その船の板には、「DECKHAND/WANTED/Pearl/FUJI〔甲板員/募集/楽園/フィジー〕と書いてある(3枚目の写真、矢印は板)〔2人がどこに住んでいるかは分からないが、オーストラリア東海岸からフィジーまでの距離は2700キロ以上。一旦出航したら、簡単には帰っては来られない。ボッシュは、妻が言っていたように、「国を離れない限り」を実行して、海外逃亡を図っているのだろうか?〕。ボッシュは、漁船に乗り込む前に、ロケットに別れの言葉をかける。「サーフィンだけは止めるなよ」。そして、過去についても、斬鬼の想いを伝える。「お前さんのママと俺… 俺たちは愛し合っていた。しばらくは。だが、彼女は若過ぎた。俺たちには準備ができていなかった。全くな。もっと違うことをすべきだった。それに、俺はいっぱい間違いをやらかした」。そして、「だがな、お前さんの存在は、俺にとって最高の幸せだった」(4枚目の写真)「俺たちは、また会える」とも。そう言うと、ボッシュは、ロケットにプレゼントの小さな箱を渡す。そして、ロケットと額をつけてじっと見合うと、「ロドニー・ジェンキンズからの絵葉書を見逃すな」と、以前、病院で使った偽名を持ち出す〔まだ、指名手配されているから?〕。それを聞いて、ロケットが一瞬笑顔になる。ボッシュは、桟橋から漁船に乗り込むと、自転車で去ろうとするロケットに向かって、冗談めかして、「なあ、相棒、これは秘密の任務だ〔I've got to go see a man about a dog〕」と言い、この言葉を2度目に聞いたロケットは、またスパイごっこをしてると笑顔になる〔因みに、“I've got to go see a man about a dog” は、不特定または秘密の理由で自分を言い訳する」場合に使われる慣用句で、「トイレに行く」から、「詮索するな」まで色々な使い方がある〕。自分のエビ漁船に戻ったロケットが、プレゼントを見てみると、それは、まだ若い頃の両親と一緒に映った幼児の頃の自分の写真だった。

一人で暮らすことになったロケットは、寂しくなって、昔、アシュと一緒に遊んだ線路の延長線上に行く〔以前は、正面に山が近く見えた。しかし、距離は数キロしか離れていない。ということは、ここはバイロン・ベイの近くだということになってしまうが…〕。鉄道を使えばアシュに会いに行けると考えたロケットは、汽車にのってアシュのいる町まで行き、学校の前で、アシュが出て来るのを待っ。寂しげな様子で出て来たアシュは、ロケットを見つけて抱き着く(2枚目の写真)。「愛してるわ、ロケット」。「愛してるよ、アシュ・アシュ」。そして、キス(3枚目の写真)。

夕方、2人は、海に行き、ロケットが持って来たサーフボードに仲良く腕を乗せて話し合う。「本当に行っちゃうの?」。「働かないと」。「一緒に暮らして、学校を終えましょ。うまくやれる方法、あると思うわ」。「僕たちが小さかった頃、流れ星を見ようとしたこと覚えてる? 僕は不安だったから、一緒にいてって頼んだ。君にだよ」(1枚目の写真)。この言葉と、ロケットが アシュの提案を断った関係が理解できないが、次のシーンでは、漁船上で、その時のこと思い出しているようなロケットの顔に変わる(2枚目の写真)。映画のラストは、激しく揺れる船にも平気で甲板に出ているロケットの遠望シーン(3枚目の写真)。この先、ロケットは漁師として一生を終えるのだろうか? もう、サーフィンはしないのだろうか? ボッシュとは再会できるのだろうか? アシュとの関係は?

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
 オーストラリア の先頭に戻る        2020年代前半 の先頭に戻る